夫婦間に未成年の子供がいる場合、親権をどちらが取得するかは大きな関心事です。
令和元年度司法統計によれば、家庭裁判所が取り扱った離婚調停(審判)事件において親権者の決定がされたうちの93.4%もの母親が親権者として認められています。他方で、少なからず母親が親権を取得することができない場合もあることが分かります。
そこで、「親権はどうやって決まるのか?」、「母親が親権を取得することができないことはあるのか?」などのお悩みを抱えている方へ、専門家が解説する内容となっております。
そもそも親権とは?
親権(民法818条1項)とは、未成年の子が独立した社会人になれるように監護・教育する「身上監護権」と、子の財産を維持管理する「財産管理権」の、2つの権利義務をいいます。
また、「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。」(民法818条3項)ことから、夫婦間に未成年の子がいる場合、夫婦のどちらか一方が親権者になることを決めなければ離婚することはできません。
親権者と監護権者との違い
一般的には、夫婦の内、子を引き取り育てる者が親権者と監護権者を兼ねることになります。しかし、親権のうち身上監護権を切り離し、親権者とは別の監護権者を定めることもできます。
しかしながら、親権と監護権を分けることは、子供の利益を損ねることになってしまう場合があるため、慎重に考えることをオススメします。
次のような場合、親権者にはできるが監護権者にはできないと考えられております。
・子供が交通事故にあい、損害賠償請求する必要が起きた場合
・医療行為の承諾が必要な場合
・進学・就職する場合
・パスポートを取得する場合
・監護権者が再婚したため再婚相手との間で養子縁組を行いたい場合
離婚自体を早く進めるために親権者と監護権者を分けることはせず、分けることによって生じる可能性のある問題について慎重に検討することをオススメします。
親権者を決めるときに重要視される要素
裁判例上、親権者の指定変更に際して以下の要素が重要視されると考えられております。
ただ、具体的な事情によって修正される場合もあります。
〇監護の継続性の原則
これまで一方の親が子を実際に監護していた場合、この養育者を変更することは子にとって心理的不安定をもたらす可能性があるため、子に対する遺棄等の特別な事情がない限り、現実の監護者を優先させるべきとする考え方です。
〇母親優先の原則
乳幼児について、母親の監護と愛情が重要であるため、母親の監護を優先させるべきとする考え方です。
〇子の意思の尊重の原則
子が15歳以上の場合、裁判所が親権者を決める際には子の意思を聞き取ることが法律上定められています(家事手続法65条)。
したがって、裁判官による聞き取りや家庭裁判所調査官の調査により子どもの意思確認を行うことがあります。
〇兄弟姉妹不分離の原則
兄弟姉妹は、同じ親から生まれともに育った者同士、強い精神的つながりを持っています。しかし。兄弟姉妹を別々の親権者が監護することになると、子の精神面に悪影響を及ぼす可能性があります。
このため、親権者を定めるにあたり、兄弟姉妹は基本的に分離すべきでないと考えられております。
離婚における有責性の影響について
不貞行為など離婚において有責性が認められる場合、この事情が親権者の適格性の判断に影響するかについて、かつて親権者として的確でないとした審判例もありました。しかし、養育者として適格かという視点から考えた場合、有責性があるからといって必ずしも親権者が否定されるわけではないと考えられてます。
親権取得のための主張のポイントとなる事情
親権を取得するために具体的にどのような事情を主張することがポイントになるのかについて、裁判例において親権者指定(変更)の判断基準とされる事情がありますので参考にしてみてください。
【父母側の事情】
〇監護に対する意欲と能力
〇健康状態
〇経済的状況
〇居住・教育環境
〇子に対する愛情の程度
〇実家の資産
〇家族・友人等の援助の可能性
〇従来の監護状況
【子の側の事情】
〇年齢・性別
〇兄弟姉妹関係
〇心身の発育状況
〇環境の変化への適応性
〇子の意向
〇父母および親族との結びつきの程度
親権者を決める手続きの流れ
親権者は、主に協議・調停(審判)・裁判の流れで決まります。
〇協議
夫婦間の話し合いによって離婚・親権者についての合意をすることができれば、離婚届(親権者の記載あり)を役所に提出し受理されると、協議離婚が成立し親権者が決まることになります。
しかし、夫婦の話し合いで親権者が決まらなかった場合には、離婚の合意があったとしても協議離婚することができませんのでお気を付けください。
〇調停(審判)
夫婦間の話し合いで親権者が決まらなかった場合には、家庭裁判所に離婚調停の申立てをし、その中で「親権者指定」の申立てをすることになります。
調停では、親権者を誰にすべきかを決めるために、心理的・教育学的等の行動科学の専門家である家庭裁判所調査官が調査を行い、その専門的知見を新鋭に生かすことが実務上行われております。
調停での話し合いの中で、離婚と親権者について合意できれば、調停成立時に調停離婚が成立し、親権者が決まることになります。
〇裁判
調停での話し合いによっても親権者が決まらない場合、家庭裁判所に離婚訴訟を提起して、離婚の判決とともに裁判所に親権者を指定してもらうことができます。
裁判では、夫婦双方の主張・証拠をもとに、どちらが親権者にふさわしいかを判断することになります。
裁判は、必ず判決か和解によって最終的な決定が出ます。
家庭裁判所調査官による調査は具体的になにをするのか?
家庭裁判所調査官は、主に「子の監護状況」や「子の意向」の調査を行い、次のような内容を記載して調査報告書を作成します。
〇子の意思
〇子の様子から読み取れる心理
〇同居時の育児の参加割合
〇双方の監護能力や、養育環境の問題の有無
〇双方の子への接し方に対する問題の有無
〇現在の監護状況とその状況を変える必要性の有無
〇双方の養育に対する考え方
〇学校行事等への関与状況
など
「子の監護状況」についての調査
具体的には、親との面接(30分~1時間程度)、子供との面接(ほとんどの場合、家庭訪問の形で行われます。)、関係機関(学校・幼稚園・保育園)での調査が行われます。
「子の意向」についての調査
子の年齢に応じて具体的調査方法が変わります。
低年齢の場合、家庭訪問での子の観察、ある程度会話が可能な年齢であれば、調査官が子と遊びながら会話すること等によって調査が行われます。
小学生高学年以上の子については、裁判所(面談室・児童室)で親と分離して面接を行う場合もあります。
親権争いで母親が負ける場合
先ほど、母子優先の原則をご説明しましたが、以下では母親が親権争いに負けるケースとしてなにがあるのか、具体的にご紹介します。
(1)子に対する暴力や育児放棄がある
母親が日常的に子に対して暴力をふるうなどの虐待をしたり、十分な食事を与えないなどの育児放棄をしたりしていた場合は、母親に親権が認められない場合があります。
(2)母親が重大な病気を持っている
母親が重度の精神疾患(統合失調症も含む)や、その他の重病を患っていて子の世話をすることができない場合は、母親に親権が認められない場合があります。
ただし、精神疾患があっても育児できる程度の場合であれば、母親に親権が認められるか可能性はあるという考えもあります。
(3)既に別居し父親が子と一緒に生活している
既にご説明したとおり、監護の継続性の原則から、母親が離婚前から別居していて、既に父親と子が一緒にある程度の期間にわたって生活している場合、母親に親権が認められない可能性があります。
まとめ
親権者にふさわしいかの判断要素は多々ありますので、「母親であるから親権を取得できる」、「父親だから親権を取得することができない」というわけではございません。
自分が親権者としてふさわしいか、まずは先ほどご説明した判断要素について、他方配偶者よりも有利な点がどれくらいあるのか考えてみることをお勧めします。
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