紛争の内容 
結婚して30年の妻Aさんは、夫Bとの間に子どももおらず、夫BがAさんの親と折り合いが悪いこともあり、離婚したいと思っていました。夫婦共働きでしたが、夫Bは自営業のため退職金がないのに対し、妻Aさんは退職金制度のある大企業に勤めていたため、夫Bとの間では、離婚すること自体には夫婦間に争いはなかったものの、Aさんの退職金をどう扱うかということで揉めていました。さらにAさんは、仕事でも重役についていたことから、業務のストレスもあり、早期退職をすることになったところ、勤務会社では早期退職の場合には早期退職手当がもらえることになっていたため、通常の自己都合の退職金よりも多く貰える予定でした。Aさんは、夫Bとの離婚の話し合いがまとまるまえに、同居生活に耐え切れず別居を開始し、その別居後半年後に会社も早期退職することになりました。
その後、Bとの離婚の話し合いはまとまらず、弊所にご依頼をいただくこととなりました。

交渉・調停・訴訟などの経過
 Aさんは当初協議離婚で円満に紛争を解決していることを望んでいましたが、夫Bとの話し合いはなかなかまとまらず、結局調停を申し立てることになりました。調停の中で、Bにも代理人弁護士を就き、調停の中では、財産分与についてどうするかを決めて離婚をすることとなりました。

本事例の結末 
結局、Aさん側としては、退職金は別居後に初めてもらえるものであること、退職金のうち早期退職手当はBの寄与がないことを強く主張し、裁判所もこの主張を前提に、財産分与の対象となる退職金は、Aさんの退職金全額とはせずに、「AさんとBの同居期間中の、Aさんが別居日において事後都合退職した場合の退職金」を基準に定められ、早期退職手当分も除外することになりました。
本事例に学ぶこと 財産分与は、離婚においても問題となることが非常に多い分野です。争いがある部分について、裁判所の審判例や裁判例、判例があれば良いのですが、そうでない争点であっても、「財産分与の法的性質」に立ち返って、分与の対象とすべきか否かという点について主張を組み立て、裁判所や相手方を説得することが効果的であると感じました。

 弁護士 相川一ゑ