離婚を切り出したところ、相手が勝手に子供を実家に連れ去って会わせてくれなくなった、また、子供が強引に連れ去られ、相手に暴力を受けているなどの扱いが見られる場合、法的手続きによって子供の身柄を取り戻すことができます。
主に以下の4つの方法があります。
子の引き渡しの調停・審判申立
親権者でない元配偶者が勝手に子供を連れて行ってしまった場合、家庭裁判所に子の引き渡しを求める調停・審判の申立をします。まだ夫婦が離婚していない場合には、自分を監護者に指定してもらうよう、「子の観護者の指定」も同時に申し立てる必要があります。
審判前の保全処分の申立
これは、家庭裁判所が審判を行う前に、仮に子供の引き渡しを実現してくれるよう申し立てる手続きです。家庭裁判所に子の引き渡しの審判を申し立てるのと同時か、その直後に申立をします。審判が下されるのには一定の時間がかかるので、それを待てない事情や緊急性がある場合に利用されます。
人身保護請求の申立
人身保護請求は、ある者が法律上正当な手続きによらずに身体の自由を拘束されているときに、地方裁判所に自由を回復させることを請求できる制度です。迅速性と実効性があり、誰もが申し立てることができます。ただし、要件(「子供を取り戻すのに他の適切な方法がないこと」など)が厳しいため、どのようなケースでも利用できるというものではありません。
人事訴訟の附帯処分
離婚の裁判を起こすのと一緒に、子の引き渡しを求める方法です(「附帯処分」といいます)。離婚に関する判決の中で、子の引き渡しが命じられます。子供が15歳以上の場合には、その子供の陳述(意見)を聞くものとされていますが、実際には子供が15歳未満であっても、家庭裁判所の調査官による調査が行われています。
あなたのケースでどの方法が適切なのかは、弁護士にご相談ください。
民事執行法改正と子の引渡しについて
令和元年5月10日に民事執行法の一部が改正され、日本国内の子の引渡しに関する強制執行に関する規律が、改正法公布から1年以内に変更されることが予定されています。
「子の引渡しの強制執行」とは、子どもを引渡す義務がある人が引渡しに応じないときに、強制的に子どもを引渡させるための手続です。
これまでにも、離婚した後、親権者でない側が子を親権者に引渡さないというケースや、別居後に子の監護者を父母の一方と定めたにも関わらず監護者とされた者に子を引渡さないケースは少なからずあり、「子の引渡しの強制執行」という民事執行法に基づく手続が、年間100件程度とられていました。
しかし、この「子の引渡しの強制執行」という手続は、具体的に法律で定められていたものではなく、「物」の引渡しについて定めた法律を、無理やり応用して「子ども」の引渡しの手続に適用していたため、実効性に乏しいなど、多くの問題点が指摘されていました。
例えば、「物の引渡し」の強制執行をする際には、物を実際に占有している者(強制執行の手続上、「債務者」と呼ばれます。)に立会わせる必要があるとされていました。したがって、子の引き渡し請求の場合、親権者に指定されなかった親あるいは監護者と指定されなかった親が、子と一緒にいる状態でなければ強制執行できなかったのです。
今回、民事執行法の改正により、「子の引渡しの強制執行」について親権者あるいは監護者(強制執行の手続上、「債権者」と呼ばれます。)の立会いがあれば、債務者の立会は「不要」となりました。
この改正により、「子の引渡しの強制執行」は、より強い実効性を持つようになり、子と一緒に過ごすべき「親権者」や「監護者」のもとに子が戻ってこられる状態が作りやすくなるのではないかと期待されます。
一方で、これまでは、債務名義(例えば、子の監護者を指定し、子の引渡しを命ずる審判)があれば、子の引渡執行を申立てることができましたが、法改正により(改正後民事執行法172条以下)、原則として、間接強制による執行(債務を履行しない債務者に対して、債務の履行を確保するために、相当と認められる一定の金銭を、債権者に支払うべきことを命じ、債務者に心理的な強制を与えて、債務者自身の手で請求権の内容を実現させる方法)の決定が確定した日から二週間を経過したときにのみ、子の引渡しの強制執行ができることになりました(改正後民事執行法174条2項、1項)。
つまり、間接強制による執行を先行させなければ、子の引渡しの強制執行ができなくなりました。
ただし、例外として、間接強制におる方法では、債務者が子の監護を解く見込みがあると認められない場合や、子の急迫の危険を防止するため直ちに強制執行する必要がある場合を除きます(改正後民事執行法174条2項2号ないし3号)。