離婚後に必要な主な手続きとして、戸籍の変更手続き、国民年金、医療保険の加入手続き、日常生活における各種変更手続きなどがあります。
必要な手続を忘れていたために、保険に加入できていなかったり、年金を受け取れなかったり、ということになることもありますので、御注意ください。
戸籍と姓の変更
結婚する場合、どちらかの姓を筆頭とする戸籍を新しく作りその戸籍に入るということとなります。離婚する場合、筆頭とした戸籍から除籍されるため、結婚前の親の戸籍に戻るか新しく自分の戸籍を作らなければなりません。
離婚後の戸籍と姓の選択には、3通りの方法があります。
①婚姻前の戸籍と姓に戻る
②婚姻前の姓に戻り、自分を戸籍筆頭者とした戸籍を新しく作る
③離婚後も婚姻中の姓とし、自分を戸籍筆頭者とした戸籍を新しく作る
原則としては、婚姻に際し姓を変更した方の姓はもとの姓に戻ります。
但し、本人が婚姻中の姓を継続して使用したい場合は、離婚後も婚姻中の姓を継続して称することができます。 離婚後も婚姻中の姓を継続して称する場合は、離婚成立後3ヶ月以内に、離婚の際に称していた氏を称する届を市区町村役場に提出します。
離婚成立後、3ヶ月経過してしまうと家庭裁判所に氏の変更許可の申し立てを行い、姓を変更する許可が必要となりますので、3ヶ月以内に手続を行うようにして下さい。離婚の際に称していた氏を称する届を離婚届に添えて提出すれば、提出手続きは1回で済み、提出し忘れることもありません。
子供の戸籍の変更
子供の戸籍は、例えば、妻が親権者となっても、夫の戸籍に入ったままですので、妻の戸籍に入れるためには、家庭裁判所で子の氏の変更の許可を得た後に、市区町村役場に「入籍届」を出す必要があります。
調停離婚成立後の手続
1 【役場】離婚の届け出~調停が成立したら終了ではありません~
調停が成立した当日から10日以内(届出期間満了日が役場の休日に当たれば、その翌日が満了日です)に、本籍地または所在地(住所)の役場に、【離婚届】をご提出ください。
その際、戸籍をどうするかは、次の「離婚後の氏・戸籍の変更の手続」もあわせて確認してください。
この時、調停調書の謄本を添付する必要があります(当然、元配偶者と一緒に届け出る必要はありません)。
届け出をするのは、多くの場合、妻側です(妻は、夫の戸籍から出るため、新戸籍を作るか旧戸籍に戻るかなどの選択をする必要があり、妻が提出するのが合理的といえるのが一つの理由です)。
2 【役場】離婚後の氏・戸籍の変更の手続
婚姻により氏を改めた人は、婚姻前の戸籍に入り、前の氏に戻るのが原則です。
単独戸籍を希望する場合には、婚姻届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」という欄については、「新しい戸籍をつくる」に☑します。
一方、離婚後も婚姻中の氏を称したい場合には、離婚届と共に、【離婚の際に称していた氏を称する届】を役場に提出してください。
なお、この届は、調停離婚成立後3カ月以内にしてください。
3 【裁判所・役場】子の氏の変更の手続
妻が子の親権者に指定されたとしても、子は従前の戸籍(多くは夫の戸籍)に残ります。そのため、子の氏は変わりません。
そこで、子の戸籍を親権者である妻の戸籍に移すためには、【子の氏の変更許可】申立の手続を、子の住所を管轄する家庭裁判所にする必要があります(これは、役場ではなく、裁判所に行います)。
この時、申立人(子)の戸籍謄本※と、父母の戸籍謄本(離婚の記載が反映されているもの)が必要です。費用は、子1人につき800円分の収入印紙と、切手数枚です。詳しくは、管轄する家庭裁判所に聞くと良いでしょう。
※申立人は、子の親権者。ただし、子が15歳以上であれば、子本人。
その後、家庭裁判所の許可が出たら、許可の審判書謄本とともに、役場に【入籍届】を提出してください。
4 元配偶者が養育費の支払などを履行しない場合の手続
調停で離婚していれば、家庭裁判所の「履行勧告」という手続が利用できます。しかし、あくまで勧告ですので、取立をするためには、強制執行という手続を踏む必要があります。令和元年に民事執行法が改正され、2020年4月1日に施行(実際に効力を発する)されますので、強制執行をしてもダメだった場合などには、銀行や就労先を探すための財産開示等を行うこともできるようになりました。
強制執行と財産開示手続
取り決めた財産分与の支払、養育費の支払を受けられない場合、強制執行をしたくても、就労先や財産の所在が分からず、断念してしまっている方もいらっしゃると思います。実は、民事執行法が改正され、財産開示を求める手続が整備されました。
一例として、預貯金の財産開示について、ご説明します。
申立は、「執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者」ですので、口約束や協議書(公正証書を除く)ではできませんが、判決、和解調書、調停調書、公正証書などがあれば、可能となっています。
預貯金については、不動産や給与債権に対する情報取得手続とは異なっており、債務者に対する財産開示手続を経る(財産開示前置)必要もありません。
要件としては、強制執行が不奏功であることが挙げられます。
これは、強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立の日より6ヶ月以上前に終了したものを除きます)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったとき、もしくは、知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき、という理解です。
要件を満たせば、日本国内の銀行、信用金庫、農業協同組合をはじめ、多数の金融機関に対して、預貯金口座に関する情報の開示を命じてもらうことができます(民事執行法207条1項1号)。
これにより、強制執行の対象となる財産を特定することができます。
なお、注意点は、銀行から情報提供された後、申立による最後の銀行から情報が提供されてから1か月程度経過後、裁判所から債務者に対して、財産に関する情報の提供がされた旨が通知されることです。
申し立て自体に必要な費用(実費)は、申立1件につき2000円とお安くなっておりますが、申立人は、自己や第三者への郵送費用6000円程度を予納する必要もあります。また、金融機関が回答をすると、1社につき2000円の報酬を請求することができ、申立人は、報酬も予納する必要があります。
もし、弁護士に依頼される場合には、別途、弁護士費用が発生しますので、気になる方は、お気軽に担当弁護士までご相談ください。
国民年金
①妻が会社員、公務員又は自営業の場合
離婚後も特に手続きをする必要がありません。
②妻が主婦で夫が会社員又は公務員の場合
離婚後、妻は国民年金に加入することになります。社会保険事務所で加入手続きを行って下さい。
③妻が主婦で、夫が自営業の場合
離婚後、妻は自分で保険料を払う必要があります。
医療保険
医療保険は生活する上で重要な事柄です。離婚した際に医療保険がどのようになるかは状況によって異なります。
①妻が会社員又は公務員の場合
会社員または公務員の方は健康保険に加入していると思います。給料から保険料金が支払われていると考えられますので、その場合は、離婚をしても今まで通りとなります。
②妻が、会社員の妻または公務員の妻の場合(健康保険の場合)
保険料を納めていなくても、夫の健康保険に扶養として加入していると考えられます。その場合、離婚後は夫の扶養から外れるため、就職して健康保険に加入することになりますが、就職しない場合は国民健康保険に加入することになります。
後者のように収入が無い状況では保険料を納める事が困難だといえます。このような場合は、役所に相談して保険料減額または減免の届を出す事で保険料を抑えることができます。
※離婚後に国民健康保険へ加入する場合は、夫の勤務先から『資格喪失証明書』を発行してもらい、その書面を持って市区町村役場で国民健康保険への加入手続きをする必要があります。従って、離婚に際し、証明書発行手続きを必ず行ってもらうよう、予め夫に伝えておきましょう。
③妻が自営業またはアルバイトの場合(国民健康保険の場合)
自営業やアルバイトの方は、現在、国民健康保険に加入していると考えられますので、特に手続きは必要ありません(ただし、パート・アルバイトの方で、会社員である夫の扶養に入っている場合には、夫の会社の健康保険に加入していると思われますので、上記②と同じ手続きが必要となります)。離婚後、会社に就職する場合は会社の健康保険に加入するので問題ありませんが、それ以外の場合は国民健康保険の保険料を自分で払わなければなりませんので、納める事が困難な場合は、役所に相談して保険料減額または減免の届を出しましょう。
④子供を母親の保険へ移す場合
子供の保険は、親権や同居の有無は問われないため、離婚後も元配偶者が加入する医療保険の被扶養者として加入し続けることもできます。しかしながら、元配偶者には頼りたくない、負担をかけたくないという場合は、子供を母親の保険へ移すことができます。流れとしては離婚後に、元配偶者は子供を保険(国保又は健保)から抜く手続である『資格喪失証明書』を発行します。その資格喪失証明書を母親側へ送り、母親はそれを持って国保であれば市区町村、健保であれば勤務先へ持って行き手続をします。
この際にも、経済的に支払う余裕がないという場合、保険料の減額制度を利用する事ができます。